兄の葬式の時も雨が降っていた。

川面がどこからか運ばれてきた桜の花びらで埋め尽くされている。

葬式からしばらくして、兄の恋人で「あった」雛乃に呼び出される。

ハンカチにくるまれた白っぽい小さな欠片。

​それは骨上げの時にくすねた、兄の、足の小指なのだという。

スーパーハイパーオフィスレディ、葛 哲慧子(つづら さえこ)は意外にも、大学時に知り合った吉野 深春(よしの みはる)との二人暮らしが、もう2年と少し続いている。

性格と馬とノリと趣味嗜好、以外の何かが合ったのだ。

やつは今年、さえこと海に行きたいとねだった。思えば入社してから毎日忙しくしている。

​たまには、いいかも。

シフト伸ばせないかって、店長が言った。

広瀬さんが来れなくなったらしい。

最近多くて困るよって、店長が言った。

広瀬さんはなんか派手な感じの、ヤバい彼氏ができたらしい。

狭い田舎ではすぐに噂がまわる。

嘘か本当かは関係なく、まわっていく。

息が詰まる。

どこかの家の明かり、どこかの家の声、どこかの家のにおい。

から、電車で２時間、バスで２時間遠ざかる。

明かりはなく、声もなく、土とか木のにおいしかしないところに、

ポツンとある電話ボックス。

でも、ここがきっと私の家。私のお母さん。

「ただいま。」

ここなら絶対安全。絶対安心。

きっと。